平安時代に出雲の国・来待でお生まれになった菅原道真(天神様)をあがめ、天神様のように賢く育つように祈りを込めて、男児誕生の時に天神様の人形を贈るしきたりが出雲にはあります。
道真公は6月25日生まれ、九州大宰府で亡くなられたのも梅が咲き誇る2月25日。道真公を祀る全国の天満宮では25日がお祭り日です。2月25日を男児の節句としています。
かつて出雲地方には白い土天神がありました。蛤の貝から取り出した胡粉で作り、つややかな人形でした。
現代の天神人形もお顔は白い胡粉で作られており、衣裳を着せたものや、木目込みで作っております。
5月になると、端午節句として鎧(よろい)・兜(かぶと)・五月人形・張子の虎を飾ります。
外には鯉のぼりを立てます。中国の昇竜の故事にちなんだもので、薫風の中を泳ぐ風景は日本の風物詩といえましょう。
そのようなわけで、出雲地方では男児に二つの節句祝があるのです。
「天神さん」とは、菅原道真公のことで、平安時代の左大臣・文章博士で学問の神様といわれます。「天神さん」の才能にあやかって、男の子の健やかな成長と「賢い子になりますように」といった願いを込めてお人形を飾ります。江戸時代ごろからこうした風習が始まったと言われています。
天神人形を飾る風習があるのは、島根、鳥取、静岡、愛知、北陸の一部と言われており、全国でも珍しい風習です。菅原道真公は松江市で生誕したという伝説があることから、出雲地方では天神さんの行事が大切に受け継がれています。
天神人形もひな人形と同じく、木目込人形と衣装着人形があります。
凛々しい顔をしたものから愛らしい顔のものまで、作家さんによって全く表情が違ってきます。
また出雲地方独自の文化として、「泥天神」という土で作られた天神人形が伝えられています。これは1800年頃、松平不昧公が藩主だった時代に作られ始めたと言われ、艶のある白い肌と長い首、切れ長の目が特徴です。
出雲地方では、節句を旧暦でお祝いする風習が色濃く残っています。このため天神人形は、ひな人形と同じく立春ごろから飾り、3月25日または4月3日に節句のお祝いをする家庭が多いようです。
基本的にはひな人形と同じように飾ります。段飾り、平飾り、収納飾りなどのバリエーションのほか、天神さんの描かれた掛け軸を飾るお宅もあります。
五月人形を飾る風習は、武家社会で兜や鎧などの武具を梅雨前に虫干しして手入れをする習慣に由来していると言われます。この習慣が、時代の流れとともに男の子が強くたくましくあれと、健やかな成長を祈って武者人形を飾るという習わしに変化していきました。
一方、こいのぼりの起源は、故事「登竜門」です。中国の山奥に竜門という滝(急流)があり、その竜門を登ることができた魚は竜になることができるという言い伝えがあります。そのことから、鯉が滝や急流を登っていく姿が立身出世の象徴となり、武家社会で飾られるようになったそうです。
端午の節句のお飾りには外飾り・内飾りがあります。
外飾りはこいのぼりや家紋の入ったのぼり、武将の絵が描かれた武者絵のぼりなどがあります。内飾りは、家の中に飾る人形や鎧兜のことです。
ところで、なぜ外飾りと内飾りがあるのでしょうか?
まず外飾りは、「男児が元気に育つことを願って」飾られます。大空にたなびく鯉の姿は立身出世の象徴でもありますので、強くたくましい大人に成長するように、という想いも込められています。また、こいのぼりの一番上にある「吹き流し」の存在は、こいのぼりをより目立たせて、神様の目に留まりやすくするためであると言われています。つまり、天の神に「男児が誕生したこと」をアピールし、ご加護を得るため外に飾る、という意味もあるのです。
一方、内飾りである五月人形は、「男児の健やかな成長を願って」飾られるものです。武士の防具である鎧や兜を飾ることで、災いから守ってくれる、という意味合いがあります。
このように、外飾りと内飾りで微妙に由来や目的が異なるため、一般的には両方飾る家が多いようです。
出雲地方では節句を旧暦でお祝いするため、6月5日に祝宴を設ける家庭が多いようです。「笹巻き」という笹でくるんだお団子を食べて、菖蒲湯に浸かるのが習わしです。
笹巻き作り名人のおばあちゃんたちが、小さな子どもたちに笹巻きの作り方を教えながら一緒に作る光景も多く見られます。笹の葉の清々しい香りがなんとも言えず心地よく、この地域の初夏の風物詩となっています。
時代の変化と共に、お節句の祝い方も変わってまいりました。
特にこいのぼりは、マンションやアパート住まいの方は設置ができないため、ベランダに飾るタイプ、室内に飾るタイプのものなど、様々なタイプのものが販売されています。
内飾りも、伝統的な作風のものに加えて、モダンでおしゃれな兜飾りなども増えています。お子さんが成長され、大きくなったあとも季節のインテリアとして楽しめるような小ぶりなオブジェも素敵です。
移ろいゆく時代の中で、お子さんの健やかな成長を祈る日本の素晴らしい風習を、いつまでも軽やかに楽しみたいものですね。